滑舌練習用 『外郎売』

samejiまじめ日記より
http://musameji.at.webry.info/200912/article_2.html
http://musameji.at.webry.info/201006/article_1.html

文字数/1740字

拙者親方と申すは、お立ち会いの中に御存知のお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて青物町を登りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪致して円斎と名乗りまする。元朝より大晦日まで、お手に入れまするこの薬は、昔、ちんの国の唐人外郎という人、わが朝へ来たり帝へ参内の折りからこの薬を深く寵め置き、用ゆる時は一粒ずつ冠の隙間より取り出す。依ってその名を帝より、とうちんこうとたまわる。即ち文字にはいただきすくにおいと書いて「とうちん香」と申す。只今は、この薬殊の外世上に広まり、方々ににせ看板をい出し、 イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のといろいろに申せども、平仮名をもって「ういろう」と致したは、親方円斎ばかり。もしやお立ち会いのうちに、熱海か塔の沢へお出でなさるるか、又は伊勢御参宮の折りからは、必ず門違いなされまするな。お登りならば右のかた方、お下りなれば左側、八方が八つ棟、表が三つ棟、玉堂造り、破風には、菊のとうの御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。イヤ最前より、家名の自慢ばかり申しても御存知ない方には、正身の胡椒の丸呑、白河夜船、さらば一粒食べかけて、その気味合いをお目にかけましょう。先ず、この薬をかように一粒舌の上にのせまして腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬは、胃肝肺肝がすこやかになって、薫風喉より来たり口中微涼を生ずるが如し。魚鳥木の子麺類の食い合わせ、その外万病速効ある事神の如し。さてこの薬、第一の奇妙には、舌のまわることが、銭独楽がはだしで逃げる。 ひょっと舌がまわり出すと、矢も盾もたまらぬじゃ。そりゃそりゃそりゃ、そりゃそりゃまわってきたわ、まわってくるわ。アワヤ喉サタラナ舌に、カ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重、開合さわやかに、あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろお。いっぺぎへぎに、へぎほしはじかみ。盆豆盆米盆ごぼう。摘みたで蓼つみ豆つみ山椒。書写山の社僧正。小米のなま噛みこん小米のこなま噛み。繻子ひじゅす繻子しゅちん。親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親嘉兵衛、子嘉兵衛、子嘉兵衛、親嘉兵衛。古栗の木の古切り口。雨合羽か番合羽か。貴様の脚絆も皮脚絆、我等が脚絆も皮脚絆。しっ皮袴のしっぽころびを、三針針長にちょと縫うてぬうてちょとぶんだせ。 河原撫子野石竹。のら如来のら如来、三のら如来に六のら如来。一寸のお小仏におけつまずきゃるな。細溝にどじょにょろり。京の生鱈、奈良生学鰹、ちょと四五貫目。お茶立ちょ茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ、青竹茶筅で、お茶ちゃと立ちゃ。来るは来るは何が来る、高野の山のおこけら小僧。狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本。武具馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。菊栗菊栗三菊栗、合わせて菊栗六菊栗。麦ごみ麦ごみ三麦ごみ、合わせて麦ごみ六麦ごみ。あの長押の長薙刀は誰が長薙刀ぞ。向こうのごま胡麻がらは荏の胡麻がらか、あれこそほんの真胡麻殻がらぴい、がらぴい風車。おきゃがれ小法師おきゃがれ小法師、ゆんべもこぼして又こぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりからちりからつったっぽ。たぽたぽ一丁だこ落ちたら煮て食お、煮ても焼いても食われぬ物は、五徳鉄弓かな熊童子に石熊石持ち虎熊虎きす、中にも東寺の羅生門には、茨木童子がうで栗五合つかんでお蒸しゃる、彼の頼光の膝元去らず。鮒きんかん椎茸さだめて後段なそば切りそうめんうどんか愚鈍な。小新発知小棚のこ下の小桶にこ味噌がこ有るぞ、小杓子こ持ってこ掬ってこ寄せ。おっと合点だ心得たんぼの川崎、神奈川、程が谷、戸塚は走って行けば灸を摺りむく、三里ばかりか藤沢平塚大磯がしや、小磯の宿を七つ起きして早天早々、相州小田原とうちん香。隠れござらぬ貴賎群衆の花のお江戸の花ういろう、あれあの花を見てお心をお和らぎゃっという。産子這う子に至るまで此の外郎の御評判、御存知ないとは申されまい、まいつぶり角出せ棒出せぼうぼう眉に、臼杵すりばち、ばちばち、ぐわらぐわらと羽目を弛して今日お出の何茂様に、上げねばならぬ売らねばならぬと、息勢引張り東方世界の薬の元締め薬師如来も上覧あれとホホ敬って、ういろうはいらっしゃりませぬか。